入院と自責


母が入院した時のこと。



見舞いのために実家に帰った俺を、父親が近所の寿司屋で夕飯でも食べようやと誘った。

父子二人で、カウンターに座り、日本酒を飲む。



「母さんが倒れたのは、俺のせいだ」



普段絶対に弱いところを見せない父親が、珍しく悔いるようなことを話し始めた。

聞きながら、ああ、まったくその通りだ。母が倒れたのはお前のせいだよなあと思いながらも、そのまま口にしたら怒りのスイッチが入るのはさすがにわかっている。何も言わずに刺身をつまみ、盃を傾けながらながら話を聞く。

それにしても珍しい。父が、数々の傍若無人な振る舞いに耐えてきた母に対し、感謝の言葉を述べながら自責するなど、子どもの頃では考えられないことだった。

年を重ねてきた親父の姿が妙に小さく見えた。



昨晩、妻が緊急入院した。出血のため、ヘモグロビンの数値が下がっている。

深夜の緊急外来。車いすに乗せられた妻を引いて、用意された病室へと入る。

痛みは治まったが、胃カメラでも腸の内視鏡でも出血の原因がわからない。

これからさらに精密な検査を受けていくことになった。



今晩は、病院帰りに地元の寿司屋に行ってみようと思う。

ひとりカウンターに座り、たぶん俺はこう考えるのだ。



「妻が倒れたのは、やっぱり俺のせいだろうか?」と。