鶴岡再訪記〜その5(最終回)

2005/9/2 1:43
8/28(日)滞在最終日

今日もチェックアウトギリギリの時間まで睡眠を貪る。
ホテルのフロントで白山産だだちゃ豆の発送を頼み、駐車場へ。
昨日の傷の具合を確認……派手にやってるけど、パンクもしてないみたいだし、これなら一日走れるだろう。
今日も天気はいい。最終日、出発!

今日は庄内に位置するもうひとつの市、酒田方面へ行ってみようと思う。
酒田へも仕事で週の半分くらいは足を運んでいた。
鶴岡は城下町、酒田は商人町。
古くは北前船が寄港していた町である。

国道7号線をまっすぐ走り、酒田市へ。
国道を右に折れて、八幡町へと向かう。
まずは八幡町営の温泉施設「ゆりんこ」へ。
昨日の「田田」と同様、入浴料は350円だが、ここは露天風呂がある。
日曜だから混んでいるかと思いきや、露天風呂には先客が1人。
青空を眺め、しばしボーッ。命の洗濯。
ちなみに八幡町には「麓井酒造」という小さな酒蔵がある。
ここの「麓井大吟醸 圓」はこれまでに飲んだ日本酒の中でいちばんうまかった。
赤川の花火大会などでは、この酒を片手にぶら下げ、河川敷に寝転がって大輪の花を見たものだ。

「ゆりんこ」を出て、俺の中で酒田といえばここ、という店へ。
酒田市外からかなり外れた生石(おいし)という集落に入り、さらに奥地へ。
「クマに注意」と書かれた看板の立つ無人の道路をひたすら行くと、
山の麓に集落が現れる。
ここにあるのが大松家という店。
「駐車場」ではなく「駐馬場」の立て札。
由緒ある日本家屋を入ると、土間があり、靴を脱いで畳に上がる。
初めてここに来たときは、確か3月の下旬だった。
庭に降る淡雪を眺めながら、誰もいない広い板の間で蕎麦を食べたんだっけ。
それからちょくちょく足を運ぶようになった店。
今日は日曜ということで、店内はまだ昼前にもかかわらず混んでいる。
注文は「田楽コース」。
囲炉裏の火が起きるまで、玄関のざるから冷えた胡瓜を勝手に持ってきて食べる。
田舎の夏。
火が起きた頃、まずは「へらみそ」から。
木製のしゃもじに味噌が塗られており、軽く焦げ目をつけて舐める。
車でなければ竹酒でまずは1杯、といきたいところなのだが……。
しばらくして焼き物のざるが運ばれる。
玉こんにゃく・鳥団子・焼き鳥・豆腐田楽・茄子田楽・山椒風味手羽先・帆立の殻焼。
豆腐田楽は火の周りに串を刺し、水を切ってから味噌をつけて食べる。
鳥団子・焼き鳥は自分で壷のタレに突っ込んで、味をつけながら何度も焼く。
帆立はだし汁を貝殻に注ぎ、煮立つまで待つ。
食べ終えたら生石産のそば粉で打った蕎麦。
色が濃いのが生石蕎麦の特徴。
そう、噛めば噛むほど甘い香りがする、この味だ。これが田舎蕎麦。
最後にデザートがついて、これでたったの1900円。
銀座あたりなら、7000円してもおかしくないだろう。

1時間以上を昼飯に費やし、車へと戻る。
さて、どこに行こうかと考え、平田町の十二滝を訪ねることに。
ここは入社して1ヵ月後、休日に当時の上司が連れてきてくれたところ。
十二滝を起点に、経ヶ蔵という山を登ったのだ。
国道を離れ、集落と集落をつなぐ道を、ただひたすら走る。
北俣という集落の奥に、十二滝はある。
駐車場に車を置き、10分ほど歩くと滝の入り口へ。
山の上から水が落ち、十二の滝がしぶきを上げる。
日曜日でも人はほとんどいない。
川を越えて、「飽海三景」の札の立つ展望台へ。
十二の滝ははっきりとは見えないけれど、かなり上のほうから水が落ち、それがいくつかの筋になり、しぶきを上げて落ちているのがわかる。
その後滝壺へ。昼下がり、しばし天然の避暑。

来た道を引き返し車に戻ると、すでに14:00を回っている。
帰りのことを考えれば、周ってもあと1箇所だろう。
最後に山形県らしいところへということで、草薙温泉で最上川を眺める。
帰路、「幕野内」「狩谷野目」といった奥ゆかしい地名の集落を経て、鶴岡駅へ。
レンタカーの修理代を払い、最後は名残りを惜しむ暇もなく、ばたばたと特急「いなほ」に乗り込んだのだった。
さようなら、また必ず来るよ、鶴岡。
今度は本当に住んでしまうかもしれない。

鶴岡、もとい、庄内の文化は、声高に主張することをしない。
なぜなら、水田があってうまい米と酒がある。よい土壌があってうまい豆がある。美しい海があって、うまい魚がある。
あたりまえのことだからだ。
この正直さ・あたりまえさが、
俺のような世の中ってモンがサッパリわからない人間にとっては、
安心できるし、信頼できるんだと思う。

鶴岡は、美しく滅びている。
そんな、気がした。