ボクサーと「いじめ」

先日世界タイトル戦で惜しくも敗れた内藤大助(宮田)は、
中学生のとき「いじめ」にあっていたという。
ボクサーになる動機はさまざまある。
親がボクシングをやっていたという親子鷹タイプ。
最初は何気なく、体を鍛えたくて始めたというタイプ。
音田隆夫(トクホン真闘)のように、ダイエットが動機だったボクサーもいる。
一際注目を浴びるのは、活発な性格(というか、ワル)からボクサーになるケース。
最近では、先日引退した大嶋宏成は元暴力団構成員だったし、
トラッシュ中沼も相当なワルだったと言う。
現役選手の中では先日ドキュメントが放映された川崎タツキ草加有沢)がワルの代表選手か。
しかし、それとは対照的に、内藤大助のように「いじめ」にあったのが悔しくて、
強くなりたいと思ってボクシングを始める選手も、実は案外多いのだ。
中でも、今では「いじめ」の過去が信じられないのが、
スーパーウェルター級チャンピオンのクレイジー・キムだろう。
今や日本ボクシング界では無敵の強さを誇るチャンピオン・キムも、
実は中学校まではいじめられ続けたのだと言う。
在日韓国人という出生ゆえ、「朝鮮人」とさんざ罵声を浴びせかけられた彼の暗い過去は、昨年12月号の「ボクシング・マガジン」で赤裸々に吐露されている。
抗うことのできない自身の出生を恨み、深い人間不信に陥っていた彼が、
高校時代に出会ったのがボクシングだった。
デビュー当初から「金山俊治」の日本名で戦っていた彼が、
2年前に「クレイジー?タイガー?キム」というリングネームに変え、
自らが在日韓国人であったことを公表したのは、
彼自身の心の中で辛い過去との訣別ができたからなのだろう。
しかし、試合前の対戦相手に対する彼の殺伐とした挑発の言葉は、
そんな彼の過去の人間不信ぶりの一端を、今でも表しているのかもしれない。

内藤にせよキムにせよ、周りに蔑まれてきた時代を経て、
「ボクシング」というスポーツに出会い、
肉体的にも精神的にも強くなってきたのだろう。
「いじめ」を受けてきた子供たちが本当の意味で強くなれるきっかけ、
ボクシングにはそんな社会的な役割もあったりするのだ。
ボクシングに熱中していくにしたがい、
自分のことをいじめてきた奴等を復讐しようという気持ちなど、
どうでもいいことだと感じられることが彼らには多いのだという。
それはおそらく、ボクシングは、相手を殴ることが自分にとってどれだけ痛いことなのかを実感させられるスポーツだからなのだろう。

そのクレイジー・キム、10/20にタイでABCOのタイトルに挑戦する。
日本・東洋太平洋に次ぐ3つ目のベルトを獲得できるのか、結果を楽しみにしたい。