タツキ―泣き虫ボクサーの軌跡

2005/9/28 2:03
昨晩の深夜、2:20から「タツキ――泣き虫ボクサーの軌跡」を観た。
俺が川崎タツキというボクサーを知ったのは、恥ずかしながら昨年10月の「ボクシングマガジン」の1コーナー「OTHER SIDE of the MOON」という記事が最初だった。
タツキさんの生きざまに心打たれたのは、加茂佳子さんの名文のせいもあると思う。
俺はこの記事を何度も読み返して、やっぱ、何度も涙が出てしまった。
この記事は昨年読んだ文章で、いちばんいい文章だった。

川崎タツキ、日本スーパーウェルター級1位。
草加有沢ジム所属。19戦18勝14KO1敗。
暴力団構成員。
背中には消えかけた「ハハハハハハ」と笑う魯智深の入れ墨。
草加のタイソン」の異名を持つ男。
その素顔、とは?

今回タツキさんのドキュメントを見て、思った。
今のタツキさんは、本当に素直に生きているんだなあ、と。
経歴に似合わぬ屈託のない話し方が愛らしく、
口から発せられる言葉は、他者への優しさに満ちていて、
本当の地獄をかいくぐったからこその、心からの思いを発しているように感じるのだ。
タツキさんって、今とても幸せな人生を送っているんだなあと。
そして、ピュアな、いやピュアすぎるくらいな性格だからこそ、泣き虫……。
純に、泣き虫。
妹さんの結婚式のシーンで流したタツキさんの涙には、俺ももらい泣きしちまった。

しかし、タツキさんの眼が険しくなる瞬間が、2箇所あった。
1回目は、タツキさんがクレイジー・キム×前田宏行の1戦を前にしているとき。
2回目は同僚のコウジ有沢が、対戦相手の五十嵐圭に不利な局面に追い込まれたとき。
それでも、タツキさんは、フィアンセ・優香さんの前でも、泣き言を吐かない。
左の拳が壊れていても、試合のために玄関を出るときには、弱音など吐かない。
笑顔で「じゃあ、行ってくるよっ」。
強いよ。すでに古い価値観なのかもしれないけれど、男らしいよ。タツキさん。

日本スーパーウェルター級王者・クレイジー・キムが、
10月にタイでABCOアジアボクシング評議会)のマイナータイトル戦を行なうことにしたのを考えると、タツキさんのタイトル戦の実現は、もっと待たされる可能性がある。
(一説には、拳の故障のために、川崎陣営がキムとのタイトル戦を断ったという話もあるのだが、真相は定かではない)
キムがベルトの返上をしない限りは、タイトルマッチは年内には実現しないかもしれない。
彼がベルトを保持していたとしても、対戦は来春のチャンピオン・カーニバルまでズレ込むかもしれない。
しかも、王者クレイジー・キムは、冗談抜きで、強い。
クレイジー・キム×前田戦を後楽園ホールに観に行ったが、
あまりの強さに俺は震えた。
そして、キムの自分自身をギリギリまで追い込んで強くなる生き方も、俺は大好きだ。
(何せ「アイアム・クレイジー」と書かれたTシャツを買ってしまうくらいだ)

タツキさんのことを「不器用なボクサー」という人がいる。
実は俺もそう思う。
8月のオンガード戦も含め、俺は彼の試合を後楽園ホールで3回観たことがあるのだが、
タツキさんは決して器用なタイプのボクサーではない。
でも……彼の渾身の右フックが空を切ったとき、観衆からは「おおっ〜」という歓声が漏れるのだ。
まさに空気を切り裂く音が、後楽園ホールに、響くのだ。
タイトル戦が実現したとき、タツキさんの優しさがどう影響するか。
彼が野性に帰り、あの右フックをブンブン振り回すとき、
俺は何かが起こるかもしれない、と思う。
その右フックが決まったとき、俺はタツキさんに、リングの上で泣いてほしいんだ。
そして、精一杯の周りの人への感謝の言葉を、この耳で聞いてみたいんだ。

最後に、この番組に登場した、
ホントは脇役になってほしくない、2人のボクサーについて。
1人目は、コウジ有沢に勝った五十嵐圭(つるおか藤)。17戦13勝2KO3敗2分。
ええ、お察しの通りです。俺が鶴岡に住んでいたからです。
でも、鶴岡に住んでる3年間で、俺はボクシングジムが鶴岡にあることすら知らなかった……。
庄内には「五十嵐」という姓が意外に多い。
そんな愛着もあるのだけれど、あの地でボクシングをするのは、
マッチメイクにも恵まれず、とても大変だと思う。
俺は見にいけなかったけれど、コウジ戦の五十嵐は強かったという。
最近では広島三栄ジムの中広大悟の例もあるではないか。
地方ジムから大きく、はばたいてほしい。

もう1人、8月のタツキさんの試合の前座で出場した選手。
番組を見ていた人ならわかるだろう。
タツキさんの試合の前に、
金髪のボクサーがきれいに相手をKOしたシーンがあったはずである。
彼が昨年のウェルター級新人王。荒井操。
草加有沢ジム所属、8戦6勝(6KO)2敗。
東日本・全日本と新人王決定戦では、
壮絶としか形容しようがない打ち合いをゴングとともに相手に挑んだ。
結果、見事全日本新人王を獲得。もちろんMVP。
とくに東日本新人王決定戦・今井桃太郎(三迫)戦は打って打ち返されるの、
すごい試合だった。
しかし、新人王獲得後の1戦で、竹山昭(本田)に今度は1RKO負け。
勝っても負けても、KO勝負の男。
8月の1戦、リングサイドで観ていたのだが、右1発でKO。マジで鳥肌立った……。
でも、だいぶ大人になってたよなあ、荒井。
日本新人王が決定したときのインタビューでは、
「これからはキャバクラなどに行かずに練習して……」なんて言ってたんだけど(笑)
彼も、タツキさんに憧れて、ジムに入門したという。
その荒井、10/4後楽園ホールの「クリーンファイト・ボクシング」で、
前回の対戦で1RKOを楔した相手、竹山昭との再戦を行なう。
いやー、コレは、観に行きてえ〜!
でも俺、この日ドラムの練習日なんだよなあ。サボって行こうか、思案中……。

タツキさんの次の試合がタイトル戦になるかどうかはわからない。
でも、次の試合では、俺も大きな声で「タンタン!」と叫んでみたい。
今日はタツキさんの入場テーマ・ジョニー宜野湾の「一本道」を聴きながら、寝ます。