世の中は、確実に、狭い……

日曜日は会社の後輩Jの結婚式だった。
この後輩J、以前は関内に住んでおり、横浜に転勤したての頃は一緒によく飲み歩いたものだ。
ところが、あるときからぴたっと一緒に飲みに行かなくなった。
彼女ができたのだ。
この彼女こそ、このたび晴れてJの妻となったNさんだった。


ランドマークタワーの70階で、幸福の儀式は行なわれた。
俺、もうすぐ桜木町に住んで1年になるけど、ランドマークの最上階まで行ったのは初めて。
なるほど、確かに景色は最高だ。
上司が「70階のラウンジで女性を口説けば確実に落とせる」と言っていたのも、うなずける。


さて披露宴、俺の席はどういうわけか新郎席の真ん前であった。
実はこういう席になることは結構多い。
1年前、学生時代の後輩Tの結婚式のときも、やはり新郎席の真ん前だった。
そのときの俺の髪の毛はバッキバキの金髪だったので、何だか後ろに控える親族の方々に大変失礼かつ申し訳ないなあと思ったことがある。
すみません、お父様。善良なあなたの息子さんの先輩がですね、30過ぎて未だにこんな髪の毛でして……。


同じテーブルはすべて会社の同僚。かつ既婚者。
歳も歳だからね、最近は既婚者に囲まれるケースも多い。
指輪の交換が済み、めでたく人前での結婚が成立し、会食へ。
と、二つ隣の同僚の女性Kさんが、俺に話しかけてきた。


「ぽんせさん、ワタシ実は昨日も結婚式だったんですよ」


はあ、そうですか。それは大変ですねえ。どんな関係の方の結婚式だったのですか?


「ええ。弁護士同士の結婚式だったんですけど」


そりゃまた、秀才同士ってわけですな。ふうむ。


「で、その結婚式のとき、隣の席に座ってた女性の方とお話したんですけど、ワタシが●●(←うちの会社名)に勤めてるって言ったら、『えーっ、じゃあパンチパーマの男の人、いない?』って聞くんですよ。ワタシ、パンチって言えばぽんせさんだと思って、すぐさま『ぽんせさんのことですか?』って聞いたら、そう、そう!!って」


……イヤな予感。
ところで、誰がパンチだ?俺はパンチもアイビーもかけたことがない。これでも立派な地毛なんだよ、地毛。悪かったなパンチで。フン。


「で、その人、『ぽんせさんと合コンしたことがある!』って言ってました」


ン、ンゴッ……ビール吹きそうになった。げっ。ま、マジですか。
動揺する自分に、テーブル全員の視線が集中。


「弁護士」でいつのことだかわかった。
それは弁護士の友人Aが今年の4月、浜スタの阪神戦に女の子を3人連れてきたときの話だ。
Aが「面白い同僚がいるから合コンしよう」と言っていたのだが、ちょうどその日は浜スタで阪神戦があったのだ。
んじゃまあせっかくだから一緒に野球を観ようということになり、浜スタで野球を観たあと、居酒屋で飲んだんだっけ。
確かその日の俺、前日飲み過ぎて、ひでえ二日酔いだったんだよな……。
名前を聞いて判明。その日来たリーダー格の女性だわな。


同じテーブルのTちゃん「ぽんせさんって合コンするんですか?」


……い、いやあ、まあ。そうですねえ、たまには、ですねえ……


隣の男K「ほらほら、悪いことばっかりしてないで早く落ち着けってことだよ、ぽんせさん」


いや、あのぉ、別に悪いことは、ですねえ……


再びこの話を持ち出した同僚Kさん。
「で、『ぽんせさんどうでした?』って聞いたら、『あの人、女性に全然興味なさそうでした』って言ってましたよ」


えー。そーかなあ。興味ありありなんだけどなー、これでも。
でもちょっとショックだなあ。やっぱそう見えちゃうんだねえ、俺って。


ああ、それにしても、世の中は、確実に、狭い……


この話をうちの部下K嬢にしてみたら、


「あはは、かなり恥ずかしいですね、それ。ぽんせさんって言ったら合コンの代名詞じゃないですかねえー。そりゃそういう目にも遭いますよ」


うるさいよ。ま、確かに部署の「月間予定表」に「ゴ」とか入力してさっさと退社することはあるけどさ……
でもさ、俺ってそんなに女性に興味なさそうかね??


「でも、何かそういう場でギラギラしてるよりもいいじゃないですか、それくらいのほうが」


うーん、まあ、そんなもんかなあ。それでいいのかなあ。


えー、これからは合コンの誘いなどには目もくれず、仕事一本、マジメ人間の道を精進したいと思います(と言ってみる)。
と、ともあれ、後輩JとNさん、末永くお幸せに!